【ケアマネの自転車奔走記】連載・第693回。
9月も後半戦にさしかかりました。皆様いか
がお過ごしでしょうか?目に見えて日の出が
遅くなり、日の入りが早くなりましたね。つ
るべ落としとはよく言ったもので、これから
駆け足のように日が短くなっていきます。
秋らしい秋が待ち遠しいですね。ただ、猛暑
とは言わないまでも、暑さはしばらく続くよ
うな予報が出ています。脱水や室温管理など、
熱中症対策は引き続きお願いします。季節の
変わり目になりますので健康管理にも十分ご
配慮を。では【自転車奔走記】はじまり!
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たきび版:介語苑・73ー133。
【語句】
社会保障(制度)
【意味】
今週は公衆衛生における「公害対策」につい
て振り返ります。近代社会の発展は人々の生
活を豊かにし、経済成長を支えてきましたが、
その裏側で生じ、発展の影のように付き従い、
時には産業や社会の在り方を大きく変えるほ
どの影響を及ぼしたのが「公害」と呼ばれる
深刻な環境問題です。日本においては、高度
経済成長期を中心に、大気汚染や水質汚濁、
土壌汚染などが広範に発生し、地域住民の健
康を著しく脅かしました。
公害は単に環境破壊にとどまらず、人間の健
康に直接的な被害をもたらす現象ですので、
公衆衛生の分野において極めて重要な課題と
して取り扱われてきています。例えば四日市
ぜんそく、水俣病、イタイイタイ病など、い
わゆる「四大公害病」に象徴されるように、
公害は特定地域における集団的な健康被害と
して顕在化します。この四代公害病では、大
気中の硫黄酸化物による慢性気管支炎や喘息、
水銀やカドミウムによる神経障害や骨疾患な
ど、その被害は深刻かつ長期に及んだことは
皆様もよくご存じだと思います。これらの事
例は、公害が「環境問題」であるのと同時に
「健康危機」でもあること、つまり公衆衛生
の観点からの公害対策への介入を不可欠なも
のとしました。
公衆衛生はもともと感染症対策や上下水道整
備、母子保健などを通じて人々の健康を守る
営みであり、環境問題とは一線を画していま
したが、公害問題を契機として私たちは「環
境と健康の因果関係」を直視することとなり、
結果として公衆衛生の対象領域を大きく拡張
させることになりました。では歴史・制度的
に見てみましょう。
1970年代に「公害国会」と呼ばれる臨時国会
で一連の環境関連法(大気汚染防止法、水質
汚濁防止法、騒音規制法など)が整備・成立
し、産業活動を規制し、環境を通じて人々の
健康を守る仕組みを制度化されています。さ
らに、公害健康被害補償法に基づき、被害者
への補償や医療費負担軽減が行われ、健康被
害を受けた住民を社会的に支援する体制が整
えられました。そしてこの過程で、公衆衛生
上の様々な施策が展開されることになります。
例を挙げると、保健所や自治体の公衆衛生部
門は、公害による健康影響調査や住民健診、
環境測定を担い、調査やモニタリングを通じ
て「科学的データに基づく政策決定」を支え
る役割を果たしています。このように公衆衛
生の現場や活動が環境問題と密接に関わり、
いわば両輪として日本の公害対策をけん引し
てきたんですね。では、公害対策における公
衆衛生活動はどのようになっているか?につ
いてです。
公害対策にかかる公衆衛生活動は大きく三つ
に整理できます。①は「環境モニタリング」
です。大気中の微小粒子状物質(PM2.5)、
二酸化窒素、オゾンなどの測定や、水質に含
まれる有害物質を監視することで、住民の健
康リスクを把握し、早期の対策を可能とする
基盤となっています。②は「健康影響調査」
です。呼吸機能検査や血液検査、疫学的研究
を通じて、環境要因と疾病との関係を解明し、
政策に反映するしくみになります。最後は③
「住民支援と教育」です。公害が発生した場
合、被害住民への相談対応や補償手続きの支
援が行われます。さらに、一般住民への環境
保健教育を行うことで、万が一に備えての予
防的な健康管理を推進してきました。続いて
は、公衆衛生における公害対策の現代的課題
はどのようなものか振り返りましょう。典型
的な「七大公害」(大気汚染、水質汚濁、土
壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)は一
応の法制度によって管理されていますが、現
代では微小粒子状物質(PM2.5)や光化学オ
キシダント(強力な酸化作用を持ち健康被害
を引き起こす大気汚染物質であり、光化学ス
モッグの原因となる)、ダイオキシン類、内
分泌かく乱物質(環境ホルモン)など、低濃
度で長期的に健康に影響を及ぼす物質への対
応が公衆衛生の新たな課題となっています。
さらに、地球温暖化に伴う熱中症の増加や気
候変化にともなる感染症の分布変化など、地
球規模の環境変化が健康リスクとなりつつあ
ることも踏まえる必要があります。これらの
新しい課題に対しては、従来の「被害発生後
の補償や規制」にとどまらず、予防的視点と
リスク管理の発想が求められていて、将来的
な健康被害を未然に防ぐための早期介入が公
衆衛生が果たすべき役割とされるようになり
ました。現代的課題が公衆衛生のパラダイム
シフトの契機となっている訳ですね。
公害対策は、もはや産業規制や環境行政だけ
の問題ではなく、人々の健康を守るという観
点から、公衆衛生の中核的な課題の一つとし
て位置づけられています。歴史的には被害の
発生を契機に対応が進められましたが、今後
は予防的・包括的な取組がより一層重要とな
っていくと考えられています。
というところで今週はここまで。
次回は「労働衛生」について振り返ります。
では、またお会いしましょう。
お相手は広森でした!
See You Next Week☆