【ケアマネの自転車奔走記】連載・第706回。
12月も終盤にさしかかってきました。皆様、
師走をいかがお過ごしでしょうか?町中もク
リスマス商戦真っ只中、年末恒例の風景です。
寒い日が続いています。ヒートショック、外
出先での不慮の転倒など、事故には十分ご注
意下さい。体調管理も大丈夫でしょうか?風
邪や感染症予防もこまめにお願いします。
では【自転車奔走記】はじまります!
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たきび版:介語苑・76-7。
【語句】
マネープラン
【意味】
結婚、出産、住宅購入、老後資金など、人生
のイベントで必要となるお金について、いつ、
いくら必要になるかを具体的に計画し、資産
形成方法まで含め考えるお金に関する計画。
◎短期連載企画
日本社会がたどってきた
〈老い〉と〈お金〉の文化史
第4回〈選べる老い〉が生んだ格差の時代。
第2章「選べる老い」は誰が選べたのか?
今週は第2章をお送りします。1990年代以降、
日本の高齢者社会は質的な問題を起点として
大きく舵を切りました。行き先は「市場経済」
という大海原です。誰しもが自身の老後を自
分なりにデザインできる社会、介護保険制度
に代表される「老後の選択肢が増えた」社会、
当時は社会全体として肯定的に受け入れられ
ていた印象があります。ですが「選べる老後」
は、社会全体に均等に行き渡ったわけではな
かったんですね。むしろその初期段階におい
ては、特定の層が圧倒的に有利なポジション
を占有していた事実があります。
いわゆる「老後ビジネス」と称される産業、
有料老人ホームやシニア住宅、健康増進サー
ビス、高齢者向けの資産運用などが代表的で
すが、これらの介護や健康、生きがい・余暇、
住まいといったそれまでは個人や家族の範囲
内であった領域が次々と「ビジネス」として
市場化していきました。これらは表向き「誰
でも利用可能」となっていましたが、実際は、
価格帯は明らかに中高所得層をターゲットに
設計されており、市場の入口が狭いハイエン
ド産業からスタートしています。ここで注意
しないといけない点は、老後の市場経済化が
日本型福祉社会の衰退~公的介護や家族ケア
の弱体化~から市場が必要になったので広が
ったのではなく、市場が先に広がり、制度と
生活がそれに後追いしたという点です。
そしてこの逆転現象こそが、市場化された老
後における「勝ち組」と「負け組」を作る出
発点となったんですね。では、その社会を勝
ち抜けた人はどのような層だったのか?ズバ
リ言うと、都市部のホワイトカラー層と団塊
世代の中高所得層になります。彼らには様々
なアドバンテージ(有利となる条件)があり
ました。彼らは1990年代から2000年代にか
けて比較的安定した雇用と収入を得ていたこ
とにより、下記のような優位性を持つことが
できました。
①【時間的な富裕さ】は、(老後の生活に関
わる様々な制度を学び、理解する機会)(投
資・資産運用の学習と実践)(住み替え・二
地域居住の情報収集)など老後を学習して準
備するという行為を可能にしました。
②【住宅資産の保有】は、(持ち家の売却に
よる資産化)(賃貸に移るなど生活資金の最
適化)(リバースモーゲージの活用)など、
老後の自由度を担保する居住資産の可動性が
ありました。
③【選択文化受容の素地】は、(企業内のキ
ャリア形成競争)(余暇の消費文化)(自己
啓発・資格取得ブーム)(個人投資ブーム)
(PC・ICTの早期普及利用者)など、自由主
義経済社会の雇用競争を生き抜いてきた者が
持つ自己決定を前提とした社会への適合性・
親和性により、老後における選択肢の多さも、
戸惑うことなく受け入れることができました。
「有利な条件」は、例えば情報へのアクセス
やその使いこなし方、社会的人脈など他にも
たくさんあります。ただ、これらの条件が市
場経済化された老後を生きていく際に必要な
ものであるならば、それらは市場経済での選
択を有意に使いこなす『選択のコスト』とも
言い換えることができ、初期段階でそのコス
トを負担できたのは中高所得層が殆どでした。
なにか階層社会みたいなお話になってきまし
たが、現実的なお話として、市場経済の原理
からするとこれらの有利な条件を活かせる社
会こそが自由主義経済であるとも言えるワケ
で…、まさに高度に複雑化した現代社会です
よね。さておき、「選べる老い」というある
意味の希望の物語は、中高所得層の先行効果
によって成立したものではありましたが、そ
の実態は経済力や資産、文化資本、生活環境、
情報などなど複合的な資源を持ち合わすこと
ができた少数層の成功物語であったというわ
けです。言い換えると、「多様な老後」は、
社会全体の共有財産ではなく、選べる者だけ
が選べる限定的なものだったんですね。
このようにして市場開放化された老後社会は
始まりましたが、当然ではありますが、限定
された選択肢しか持てない層が存在します。
また、勝ち組とも称される層も、健康状態の
変化、投資前提の老後資金計画の破綻やリタ
イア後の孤立、医療や介護負担の想定外の増
大など様々な条件でその選択肢の幅は狭まっ
ていきます。そして、それらは市場経済社会、
自由主義経済社会では、原則的に個人に帰属
する因子として処理され、社会的な意味をも
つまでには時差が生じることになります。そ
の結果、いわば負の電荷を帯びた個人因子は
集合としての意味を持ち、これらが社会的分
断の始まりとなるのです。
次回の第3章は「社会的分断」についてお話
します。では、またお会いしましょう。
お相手は広森でした!
See You Next Week☆

