【ケアマネの自転車奔走記】連載・第246回。
いやはやこれほど雪の日が多い冬になるとは
皆様、いかがお過ごしでしょうか?寒い日や雪
の日は決して嫌いなほうではないんですが、さ
すがに参ります。『家の作りやうは、夏をむね
とすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き
比わろき住居は、堪へ難き事なり。』徒然草の
一節ですが、この堪へ難き寒さの前ではさすが
に『いかなる所にも住まる』とはいかず、家で
も外でも着膨れしたまま「寒い寒い」とつぶや
いています。立春は過ぎましたが寒さ和らぐ彼
岸はまだまだ先。皆さま体調には十分ご注意し
てお過ごしくださいね。というところで…と、
その前に、先週のお答え。先週のブログに掲載
した文章は森鴎外「舞姫」の冒頭部分でした
ではあらためて自転車奔走記】始まります!
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今週も共依存についてのお話しです。
前回、共依存状態に陥っているアルコール依存
症患者とその家族を例にとって、共依存という
人間関係の嗜癖は実際の生活場面でどのような
形をとって現れるか?をお話ししましたが、今
回はその続きとなります。おさらいになります
が先ずは事例の前提となる状況を再掲したうえ
で、事例を挙げてお話しをしていきます。
【前提となる状況】
アルコール依存症患者のAさんは飲酒で様々な
トラブルを起こし、アルコール病棟への入退院
を繰り返しています。退院しては再飲酒し入院
してを繰り返し、今は仕事にも行かずに一日中
家で酒を飲んでは酩酊して前後不覚になったり、
妻のBさんに辛く当たったり、時には暴言や暴
力を働いたりしています。Bさんは収入のない
Aさんに代わって家計を支えるために昼夜を問
わず必死に働いていますが、AさんはそんなB
さんを当てにしてか、さも当然のように毎日飲
酒を続けて止める気配もありません。
【例2】
BさんはAさんが飲酒をやめて元の普通の生活
が送れるよう、色々な方法を取ってAさんの飲
酒に対します。お酒を隠して飲めなくしたりA
さんから小遣いを求められても与えなかったり、
アルコール依存症についてAさんと話し合いを
したり、一向にお酒を止めないAさんを責め立
てたり、時には怒ったりしてAさんがお酒を止
めてくれるきっかけを作ろうとしています。
(解説)
アルコール依存症のAさんがお酒を止めること
ができるよう、家族として最大限の対応をして
いるように見えますが、これらの対応に対して
アルコール依存症患者はどのように反応するで
しょうか?以前お話ししましたが、これらの対
応は全くとは言いませんが、ほとんど効果はあ
りません。むしろ逆効果の場合もあります。例
えばお酒を隠したら『自分に対して嫌がらせを
している。気分が悪いから飲む』といって飲み
に行ってしまう。お金を渡さなければ借金をし
てでも飲む、話し合いをしたとしても酩酊状態
では話にはなりませんし、素面の時であれば一
通りしおらしいことは言いますが、それは反省
や断酒の決意ではなく、Aさんにとって共依存
関係にあるBさんが自分の飲酒にとって何かと
都合のよい人間であるつづけるための、その場
しのぎの反省であり、Bさんに巣くう共依存心
をくするぐるような弱い人間を演じて見せたり
しているに過ぎないんですね。Bさんのこの対
応は共依存に陥っている人に良く見られる「他
人をコントロールしよう」という心の働きです。
相手が自分の思い通りに動いてくれないと「こ
うするべきだ、こうあるべきだ」と責めたり、
怒ったり、相手を何とか変えようとコントロー
ルすることを指します。この働きの奥底には「
相手が変われば自分も変わるはず」というある
意味非常に能動的で受動的な心理が働いていま
すが、一般的な人間関係においても『自分が変
わるために相手が変わる必要があるから、相手
をコントロールしよう』という発想は普通しま
せんよね。まず変わるべきは自分自身なんです
が、そのことが見えなくなっている共依存の関
係ではお互いそれぞれが互いをコントロールし
ようとする不健全な人間関係が繰り返されます。
【例3】
Bさんは酩酊しては問題を起こし、素面に戻っ
てひどく落ち込んでいるAさんを(可哀そう)
と感じてしまいます。そのうち自分も「この人
がお酒を止められないのは自分の力不足かも」
と思ってBさん自身もひどく落ち込んでしまい
ます。それとは逆に、お酒を飲んでいても笑顔
で楽しい話を繰り返すAさんを見ていると自分
まで楽しく幸せな気分になってしまいます。
(解説)
Aさんが抱える依存症という問題は(Aさん自
身の問題)として、自分の問題とはっきり区別
することができず、自分の問題のように感じた
り、自分の問題として問題化してしまったりす
る例で、この【自分と相手の心の区別が不明瞭】
という状態も共依存に陥っている人の特徴とさ
れています。この心理は一見相手の痛みや悲し
みや喜びに共感できる能力と勘違いしてしまい
ますが、共感は感じる側にしっかりとした自我
や自己があってこそ成立するものなんですね。
共依存者は自分自身だけでは満たすことができ
ない自己承認欲求を背負っています。そのこと
は自己に対する評価が低いと言い換えることが
できますので共依存者は人の痛みや辛さを共感
として受け止めるだけのしっかりとした自己が
ないがゆえに、人の心の問題を自分のことのよ
うに感じてしまいますし、逆に自分の辛さや痛
みは相手がそのように感じているはずと思って
しまいます。これは問題解決のツールとしての
共感とは似て非なるもので、言葉は少々悪いで
すが『傷を舐め合っているだけ』の状態です。
もちろん依存症、そして共依存の解決には程遠
い状態が続くことになります。
というところで今週はここまでとします。
次回も共依存についてのお話しになります。
では、寒いがまだまだ続きますが、
元気にお過ごし下さいね。
SEE YOU NEXT WEEK